百貨店の外商の販売方法は大きく分けて二つある。一つは、お金持ちの家に直接伺うこと。もう一つは、「特別招待会」と呼ばれる販売イベントにお客さまを連れて行くこと。この特別招待会、略して特招は月に1〜2回ぐらいのペースで開催されていた。会場はイベントの「格」により、百貨店内で催すこともあれば東京、大阪、京都、名古屋などの高級ホテルで大々的に開催することもあった。こうしたVIP向けの特招は新聞チラシなどに一切掲載されないので、一部のお金持ち以外は百貨店がこのようなイベントを日常的に実施していることすら知らないだろう。
特別招待会の中でもっともハイグレードだったのが、某海外高級ブランド「D」の宝飾品・毛皮製品の展示販売会。このイベントはメーカー主催だったので、会場には我々の他にも高島屋、三越、大丸など日本全国の名だたる百貨店が参加していた。黒塗りのハイヤーが次々とセレブを運んでくる。中にはTVで見たことのある有名人の顔もちらほら。エスコートする外商員もどこか誇らしげだ。
お客さまがホテルに到着しても、すぐに展示会場へ案内しない。まずは最上階のレストランへと連れて行き、4万円のフレンチフルコース(ランチ)を食べさせる。しばしゆったりくつろいでいただき、ワインでいい気分になってきたところを見計らってテーブルまで迎えに行く。それでもまだ会場には入らない。では何をするかというと、ファションショーの観覧だ。これがまたいい!モデルはすべてパリコレなどに出演しているバリバリのトップモデル(誰も知らないけど)。ちらっと聞いた話によると、このイベントのワンステージだけでギャラがウン百万円だとかなんとか。とにかくモデルの顔の小ささにはビックリギョーテン。「あんたらほんとに人間か」というかんじ。
4万円のランチ(ワインも含めれば6万ぐらい)とファッションショーでいい気分にさせたら、いよいよ展示会場へ突入だ。このイベントではもっとも安い商品でも70万円。お客さまは「つきあい」で何か買うにしても、最低70万円は出費することになる。ここで一組のお客さまにかかる経費を計算してみよう。まず新幹線代が往復60,000円(ご夫婦2名分。当然グリーン)、食事代が100,000万円、イベントへの参加料10,000円、これに私の新幹線代12,000円(普通席)を足して、ざっと162,000円・・・。何か買ってもらわないと大赤字必至なのである。しかしそこはセレブのお客さま。ちゃんと理解していらっしゃる。ご主人は腕時計を、奥様はダイヤのファッションリングをご購入。しめて3,600,000円ナリ!これだけ買ってくれれば御の字だ。すかさず必殺のセリフ「今日はお泊まりになられたらいかがですか」発動。お買いあげ金額がもし100万円以下ならこのセリフは発動しなかっただろう。「そうね、あなたどうかしら」「僕は構わないよ」。すぐに近くに待機していたホテルスタッフへ耳打ちして部屋をおさえる。さすがにスイートまでは提供できないが、それでもツインではいちばんいい部屋を取ってあげた。たしか5万円ほどしたような記憶がある。
その後お客さまと別れ、ホテルを後にした。セレブの世界から現実世界へと逆戻り。ドッと疲れが押し寄せる。帰りはどこにも寄り道せずに新幹線の駅へと直行。「4万円のランチって、どんなかなー」と想像しながら食べた800円の駅弁は、それはそれでおいしかった。
2007年03月27日
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